tonocchoのメモ

軽い気持ちで

海外移住組にとっての身内の不幸は災害であるという話

この記事は海外Advent Calendar 2016 の四日目の記事です。

四日目、四・・・し・・・死、ということで、今回は死にまつわる縁起でもないことを書きます。ですが、海外移住を志す人は、考えておかねばならないポイントです。

現在、私はNZに移住すべく頑張っているのですが、先日父が他界し、それに伴って相続の手続きなどで日本に戻ってきました、そしてそのまま3ヶ月経っています。一点認識していただきたいのは「一度相続に巻き込まれると移住がかなりの影響を受ける」ということです。

ちなみに、私の場合は、留学開始直後に相続となったため、学校は一旦キャンセルして、半年後に再開、という結果になりました。もうこの時点でかなり影響が出ていますね。もちろん滞在費であるとか、子供の学費であるとか、です。

では、相続についても軽く話をします。

実印

まず、相続においては実印が必要です。在留証明や署名証明でやれるのでは?という方もいるかもしれませんが、それは申し込む機関次第のようでした。

例えば、ある銀行は在留証明と署名証明さえあれば手続きはできる、と言いましたし、別の銀行は印鑑証明でないと受け付けることができない、ということでした。もうこの時点で日本に居ざるを得ませんでした。

在留証明や署名証明をとるには、その国の在外公館に出向く必要がありますし、銀行の窓口の人は「持ってきてください」と言っていたので、それらの書類のためだけにもう一往復する羽目になるということでしょう。

印鑑証明の要件

実印というのは、つまり、役所で印鑑証明を発行してもらう印鑑です。で、この印鑑証明を取得するには「住民登録がされていること」が要件です。つまり、住民票がないと印鑑証明は手に入らない、住民票が無効になれば印鑑証明も無効になる、ということです。なので、一度実印を持ったら、手続きが終わるまでは住民票を抜くことは出来なくなります。というのも、「手続きの最中に印鑑証明が無効になると相続手続きが中断される可能性がある」というのが弁護士さんの談でした。

相続って最低どのくらいの期間かかるのか?

相続は、相続人の数や、それらがどのくらいもめるかに依存します。例えば、何年にも渡って相続がまとまらない家庭もあるようです。何れにしても相続は差はあれどスムーズにはいかないものだと考えるほかありません。

では、最低どのくらいかかるのか、という点ですが、大体こんな感じです。

  • 不動産の名義変更に1週間
  • 不動産を売却する場合は、名義変更、及び売却の契約成立後売却先への名義変更に1週間
  • 銀行口座の相続に2週間
  • 株式の相続に1ヶ月
  • 保険、車検証などの名義変更に2週間

不動産、保険、自動車などの処理については、名義を相続人に変更しないと何もできませんから、大変ですね。

というわけで、故人が何をどのように残すかによって結構な期間がかかります。また、遺品の整理であるとか、葬式、埋葬、と言ったことも平行で行います。なので、最初の1週間〜一月程度は故人のこと以外何もできないと思った方がいいと思います。

相続を開始するために必要なもの

前段を見て、「相続なんてすぐ終わりそうなものだ、せいぜい一月だろう」と思われたかたもいるかと思いますが、相続は、「開始するための準備」というのがとにかく大変でした。準備とはつまり、「故人のすべての法定相続人が公的な文書によって証明され、そのすべての法定相続人がどのような相続をするのかについて合意した文書を用意する」ことを完了する、ということです。つまり、

  • 故人が生まれてから死亡するまでのすべての戸籍謄本(つまり2代遡ってから現在までの全戸籍謄本)
  • 法定相続人全員の出生から現在までのすべての戸籍謄本
  • 遺産分割協議書

が必要になります。また、法定相続人の制度はかなりややこしいため、「えっ!?この人も相続人!?」とか「えっ!?この人相続権ないの!?」ということもあります。

戸籍謄本については、自分の直接の家系(直系の親や子供)は自分で取得することができますが、仮に異母兄弟がいるような場合は、彼らの戸籍謄本取得を司法書士にお願いしなくてはなりません。また、戸籍謄本は、すべての謄本を一括で取得することができないため、一つ取得したらそこに記載された従前戸籍や次の戸籍を調査して、次に進む、ということを繰り返さなくてはなりません。さらに、あまり昔の戸籍になると、その中のメンバーと自分が直系であることを示すための戸籍謄本を合わせて提出するよう求められます。

戸籍謄本を郵送で取得するときは、1回の申請について1週間程度かかりますから、仮に5通の戸籍謄本を郵送で取得すると、それだけで5週間かかります。近距離であれば、自分で役場に赴いてどんどんと取得してもいいのでしょうけど、遠隔地の場合は、かなりの負担になります。

故人と、全法定相続人の戸籍謄本が集まったら、今度は遺産分割協議書を作成します。その際に、遺産の目録が必要です。これは完全なものである必要はありませんが、あると知っていたのに書かないともめるので、必ず「目録にない遺産が後日判明したときは別途相談する」などと協議書に書く必要があります。

これには、すべての相続人について「何をどれだけ相続するのか」ということが完全に正しく記載され、全員の住所氏名実印の押印と印鑑証明を添付しなくてはなりません。誰か一人でも実印を押さなければ、永遠に相続は開始できません。例えば、不動産の場合は、法務局で登記の書類を取得して、そこの番号を間違えずに書かなくてはなりません。間違えるとその不動産についての相続は無効になって、分割協議のやり直しになります。

どういう揉め方があるか

前段を見て、「全員の合意なんてそんなに大変なのか?残った財産を分けるだけだろ?」と思う人がいるかもしれませんが、相続というプロセスにおいてありがちに働く心理は、「自分が一番得をしたい」というもののようです。また、相続人を焚きつける人、変な入れ知恵をする人、様々なようです。よくもめることとしては

  • どの不動産を誰が相続するか
  • 不動産の価格をどう設定するか

というあたりのようです。不動産価格の設定でもめるというのがイマイチピンとこない人もいるかもしれませんが、不動産の価格は、行政の評価額、不動産業者の査定額、と様々です。現金を相続する人は、不動産価格を高くしたいし、不動産を相続する人は不動産価格を低くしたいという心理が働きますから、ここももめるそうです。

どの不動産を相続するかについては、例えば、収益の発生するものとか、そう言った点です。相続の価格は、死亡時点の価格になるため、そのような揉め事が起こるようです。

遺書があれば大丈夫か?

そう言った揉め事も遺書さえあれば、解決するでしょうか?というと、部分的にYESです。というのも「遺書は無敵の力を持っていない」という点です。例えば、遺書に相続の割合を記載しても、遺留分を下回ることはできません。また、内容にどうしても納得がいかない場合は、遺書の無効裁判という捨て身作戦も可能です。それに、遺書が法律の要件を満たしていないと無効です。

また、遺書の中で隠し子を認知したりすると法定相続人が増えて余計に揉めますから、遺書も一長一短です。

ただ、ないよりははるかにマシです。なぜなら、遺族がやるのは、遺書の内容に不備があったらそれに対する調整作業だけなのですから。

じゃぁ生前に分割協議書を作らせよう!

残念、生前に作られた協議書は無効です。他にも、生前に相続圏を放棄できるかは家庭裁判所が判断します。ちなみに、生前に遺留分を放棄することは可能ですが、それをやった場合は、遺書が必須です(遺留分を放棄しても相続権は放棄されないため)。

一番スムーズなのは放棄をするという現実

では遺産相続を終わらせる最もスムーズな方法はなんでしょうか?というと、相続放棄が最速です。家庭裁判所で相続放棄しますといえばある程度の手続きで終わるそうです。ですが、ある程度のまとまったお金が手に入るような場合は、相続放棄の決断は難しいと思います。なので、相続をするという前提で、できるだけスムーズに終えられるように準備をしておくことが大事かと思います。

準備について

では、遺産を残す人は、一体どういう準備をすればいいでしょうか?というと、分割協議をいかにスムーズに終えられるようにするか、という一点だと思います。例えば、相続に必要なすべての戸籍と家系図を用意して、もちろん遺書も書いておく、と言った点でしょう。また、目録も作っておくといいと思います。この辺は、弁護士や司法書士といった士業の方の力を借りる必要があると思います。

また、自分の法定相続人が誰なのかを明確にする必要もあるでしょう。もし自分には思いも寄らない相続人がいるような場合は、きちんと遺書を書いておかなくてはなりません。

変な話すべて預金にしてしまえば、もめるポイントは相当減る(現金を遺書の指示に従って分割するだけなので)でしょうが、なかなかそうもいかないと思います。

まとめ

海外移住者にとって、相続という制度がどれだけ負荷をかけるものであるかがわかっていただけたかと思います(というかこの制度、 * 絶対もめるデザインだよね・・・)。特に、就職したばかりの人、学校を卒業して、やっとの思いでワークビザを手に入れた人、移住の基準をクリアできたから永住権の申請をした人、こういった人に対して、相続がどう影響するのか、場合によっては、人生を左右しかねない、移住の成否をひっくり返すような出来事にもなり得ます。

ですから、一度相続というのをよく考え、作戦を立てておくことをお勧めします。